もしも食事が口から食べられなくなったとしたら? 〜胃瘻や胃管の実際〜

人工栄養は延命治療?

認知症が進んだり、脳卒中になったり、パーキンソン病などの神経の病気が進行すると、食事をうまく飲み込めなくなることがあります。そんな時はどうしたらいいのでしょうか?

そんな時には、人工的に栄養をとる方法があります。では、果たしてそれを受けるべきなのか?とても難しい問題です。「口から食事が取れなくなれば、そこが寿命だ。それ以上は延命治療だ。」そんな考え方がある一方で、できる医療は受けたい、できるだけ長く生きていたい・生きていてほしいと願うことも当然です。以前の記事にも書いたように、延命治療という治療はありません。今回の記事で、人工栄養について詳しく知っていただいくことで判断の一助になれば幸いです。

 

1、胃瘻

胃カメラを使って手術を行い、胃とお腹に穴を開けてチューブを通します。お腹から出たチューブを通して、胃に直接栄養剤を入れることができます。長期的に安定した栄養管理が可能となります。胃瘻のチューブには長いもの、短いもの、風船タイプやバンパータイプなどがあり、定期的に交換する必要があります。手術を行うのでそのリスクはありますが、寝たきりの人でも受けることができます。しかし、胃瘻にしたからといって誤嚥性肺炎のリスクがなくなるわけではありません。ちなみに、胃瘻を作ってもお風呂に入ることはできます。

メリット

・チューブの交換の頻度は3~6ヶ月と長め。

・交換の際の本人の負担は少ない。

・チューブが抜ける心配が少ない。

・誤嚥のリスクが低く、口から食べる訓練を行うことができる

→うまくいけば、人工栄養から離脱できる。

・チューブは服に隠れるので、顔は自然な見た目のままで、表情も出しやすい。

 

デメリット

・手術のリスクがある。

・過去に胃の手術をしていると行うのが難しい。

・肺炎のリスクが無くなるわけではない。

 

2、経鼻胃管

鼻から長いチューブを胃の中に入れて、そのチューブを通して栄養剤を胃に入れます。チューブを鼻から通すだけなので、比較的容易に行うことができますが、その分抜けやすく、本人の苦痛が大きく(胃カメラを常に入れられているようなものだとお考えください)、誤嚥のリスクも上がるため、長期的な栄養管理には不向きです。また、胃管を入れる手技は盲目的であるため、チューブの先端が気管内に入ってしまうことがあります。チューブが気管に入ったまま栄養を入れてしまうと、肺に栄養剤が流れ込み、命の危険もあります。病院ではチューブの先端の位置をレントゲン検査で確認することが一般的ですが、在宅で行うことは難しく、より危険性が高いと言わざるを得ません。簡単にできるので後のことを考えずに選択されやすいですが、意外とその後の危険性やデメリットも大きいので注意が必要です。

メリット

・簡単に行うことができる。

・手術を受けなくて済む。

デメリット

・通常は1ヶ月に1回の頻度で交換が必要になり、その度に本人の苦痛が大きい。

・抜けやすいため、手を抑制せざるを得ないことが多い(ミトンをつける、ベッドに縛るなど)

・誤嚥のリスクが大きく、口から食べる訓練は難しい。

・在宅での胃管の交換は、確認作業が正確でないため、リスクが大きい。

・鼻からチューブが出ているため、見た目が良くない。

 

3、中心静脈栄養

何らかの原因で、胃腸による消化ができない場合に行われます。カロリーが高い点滴は手足の細い血管では行うことができないため、体の中心部分の太い血管(中心静脈)に点滴をします。特に在宅ではCVポートという機械を体の中に埋め込んで体の中心部の静脈に点滴ができるような器具を使うことが多いです。CVポートの手術は、局所麻酔で30分ほどの簡単な小手術です。多くは右肩付近に設置されることになります。基本的には24時間で常に点滴を行うことになります。

メリット

・安定した栄養管理を行うことができる。

・腸閉塞などの患者さんにも行うことができる。

デメリット

・胃腸を使わない栄養方法なので、生理的ではない(腸管粘膜が萎縮する、免疫機能が落ちる)

・24時間点滴に繋がれるので、ある程度動きが制限される。

・長く続けているとむくみが強くなることがある。

・お風呂に入るのがちょっと面倒。

 

 

在宅での人工栄養の実際

胃瘻や胃管の場合には1日に2〜3回、栄養剤や水分を入れることになります。栄養を入れるのは、主にご家族や訪問看護師の役割になります。また、特定の講習を受けたヘルパーさん(訪問介護)も栄養を入れることができます。栄養剤は薬品扱いで医療保険が効くもの(1〜3割負担)、食品扱いで医療保険が効かないもの、糖尿病や腎不全の方にも使えるもの、半固形で逆流しにくいものなど、たくさんの種類がありますので、それぞれの患者さんにあったものを使うことになります。

中心静脈栄養の場合には1〜2日毎に1パックの点滴を行うことになります。点滴のパックの交換はご家族や訪問看護師で行いますが、一定の速度で点滴する必要がありますので、専用の機械を使います。この機械はレンタルで、医療保険の適応になります。持ち運びもできるタバコの箱2つ分くらいの大きさです。

このように、在宅で人工栄養を行う際には、ご家族にもある程度お手伝いいただくことが多いのが現状です。通常は、入院中に教えてもらえますし、退院後も訪問看護師に教えてもらえます。初めは大変に思うかもしれませんが、慣れてしまえばそれほど複雑な作業ではありません。

 

人工栄養を選択したら、それで終わりではない

人工栄養を開始しても、その後は患者さんの病状は変化していきます。開始するときにはそれがベストな選択肢と思われていたとしても、その後の経過によっては人工栄養を継続することが本人の苦痛を助長することもあります。また、場合によっては人工栄養から離脱できるようなることもあります。大事なことは、その時その時にきちんと状態を把握し、患者さんに最もメリットがあるであろう医療ケアを継続することです。可能であればご本人も含め、ご家族、医師、看護師、ケアマネジャーなど、みんなで考えていきたいですね。

 

 

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加藤 寿

総合診療科祐ホームクリニック
職業:医師、専門:総合診療科、緩和ケア 自治医大を卒業し、埼玉県秩父地域で総合診療科として地域医療に従事。緩和ケアチームを立ち上げ、在宅医療の充実を図り、住み慣れた自宅で最期まで過ごせる地域作りに貢献してきた。医療の原点は地域にあると感じ、人を診る医師、地域を診る医師の育成を目指す。

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