在宅で痛くなった時、どうしたらいい?

自宅に帰れることは嬉しいけど、何かあった時のことが不安。。特に痛くなった時にどうしたらいいのか。。

在宅に移行した時に、多くの患者さん・ご家族が心配されるのが、何かあった時、特に痛みが出た時にどうしたら良いかということです。とりわけ、進行がん患者さんにおいては、痛みが出ることも多く、自宅で過ごせないのではないかと考える大きな要因だと思います。今回は、自宅で痛くなった時の対処方法についてお話しいたします。

※以降の記事は、がん患者さんを想定して書いています。腰痛などの慢性疾患の場合は、考え方が異なりますので混同されませんようにお願いいたします。

 

痛み止めをきちんと使用する、痛みは我慢しない。

まず、当たり前のことなのですが、お医者さんから処方された痛み止めは、きちんと飲みましょう。私のこれまでの診療の経験上、痛み止めは胃を悪くするとか、とにかく薬は体に良くないと考えて、自己判断で薬を中止したり、減らしたりする人が非常に多いです。それで症状が落ち着いているのならば問題ないのですが、聞いてみるとやっぱり「痛い」との返事。。

日本人の特性なのか、痛みを我慢することが美徳であるという風潮が強いように感じます。芸能人の方の闘病記録を見ても、そのような記述がちらほら見受けられます。もちろん、本人の考えですので、痛みを我慢したいというのであれば、それは尊重されるべきなのかもしれませんが、医学的に言えば、痛みは我慢せずに取った方が良いと思います。まず第一に、痛がる患者さんの様子を周りで見ている家族は心配してしまいます。そして、痛みを我慢して笑顔でいられない、常にストレスにされされた状態では、体の免疫力も落ちて、逆に寿命を縮めてしまう可能性もあります。

痛みが強くなってくると、どうしても薬の種類も量も増えてきます。確かにどんな薬にも副作用が出る可能性はあります。しかし、医師が処方した種類と量であれば、副作用の害よりも、大きなメリットがあると考えられて処方されています。体の痛みを取るためには、まずは処方された通りに薬を飲むことが重要です。

 

医療用麻薬の知識を持つ

痛みが強くなってくると「オピオイド」を使うことがあります。「オピオイド」とはいわゆる「モルヒネ」に代表される「医療用麻薬」のことです。「モルヒネ」や「麻薬」と聞くと、とにかく恐ろしいイメージがあり、拒否感を示されることが多く、我々医療者は悩むことが非常に多いのです。このようなことが起こる理由としては、以下のような誤解によるものだと考えられます。

1、麻薬を使うと中毒になる、頭がおかしくなる

麻薬と聞くと中毒症状や離脱症状など、「使うも地獄やめるも地獄」のようなイメージを持たれることが多いようです。しかし、医師が処方する種類と量の麻薬を使用する限りでは、中毒で依存症になったり、頭がおかしくなったりすることはありません。痛みに対して医師からの指示通りに使用する限りでは問題はありませんので、安心してお使いください。

2、麻薬を使うと寿命が縮まる

麻薬を使うことで、体に負担がかかり寿命を縮めるのではないかと考える人は多いようです。実は、科学的にそのような事実はなく、むしろ麻薬を使うことで寿命は縮まないという統計データもあるくらいです。逆に、麻薬を使わずに、痛みを我慢する方がストレスから免疫威力が落ちて、寿命が縮まる可能性もあると考えられます。

3、麻薬は副作用が強い

確かに麻薬には副作用があります。代表的なものとしては吐き気、便秘、眠気などです。しかし、これらの副作用は多くの場合にはコントロールが可能ですし、痛みを抑えることができるという、副作用を上回る効果を期待できます。副作用をうまく抑えながら、必要があれば上手に麻薬を使うことが重要です。

4、麻薬を使うということは、末期でもうすぐ死ぬということだ!

こちらの記事でも書きましたが、緩和ケアはがんと診断された時から始まるものです。がんの手術をする前、すなわち治るがんであっても、その時に必要であれば麻薬を使います。つまり、診断された初期であっても医療用麻薬は処方されるのです。その後、治療がうまくいって、必要なくなれば麻薬はやめられます。必要な時だからこそ、必要なものを使う。麻薬は特別な薬ではなく、必要に応じていつでも使われる薬なのです。

 

痛み止めは点滴でも受けられる

痛みがどうしても飲み薬で取れない場合、やっぱり点滴で痛み止めを打ったてもらわないといけないし、そのためには入院しなくてはいけないんでしょ?そんなこと思っていませんか?

実は、痛み止め(主に麻薬の痛み止め)の点滴は自宅でも受けることができます。CVポートという点滴のための管が腕や肩に入っている場合にはそれを利用し、そうでない場合には皮下注射といって胸や腹などの皮膚の下に点滴を指します。痛み止め用の点滴の機械も小さいので、点滴をしながらトイレに行くこともできます。痛みが強くなれば、点滴の速度を速めたり、点滴の濃度を上げたりして調整を行います。すなわち、今や痛みと取る治療としては、在宅でも入院と同様の治療を受けることができるのです。

 

痛くなった時用の薬を使う

在宅では常に医療者や介護者がそばにいるわけではありません。そのため、医師は症状が出た時に使える薬をあらかじめ処方しておきます。つまり、痛みが出ることが予想されるのであれば、痛みが出た時用に使う薬が用意されているはずです。がん患者さんの場合は、痛み止めの屯用の薬は多くの場合は麻薬です。痛みが出た時に飲めば、スッと効く痛み止め。飲める状況であれば粉薬や水薬が処方されますが、がんの末期になってくると往々にして薬を飲むことができなくなってきます。そのような場合に備えて、座薬を処方したり、注射であれば痛い時に痛み止めの注射を早送りできるように設定しておくものです。

1、スッと早く効く屯用の薬(錠剤、水薬、粉薬、舌下錠など)を飲む
2、飲むのが難しい時には、座薬を使う
3、痛み止めが点滴の場合には、早送りのボタンを押す

在宅医療では、常に痛くなった時の備えを考え、ご家族だけでできる対処方法を準備しますので、ご安心ください。

 

薬だけじゃない、痛みを軽減させる方法

これまで、がんの痛み止めについて話をしてきましたが、痛みを抑えるのは薬だけではありません。

痛みに対しては、様々な方法があり、自分に合った方法を継続していくことが重要と考えられます。

 

骨に転移がある場合

がんで痛みが出ることが多い一つの理由としては、骨に転移をするからです。骨に転移がある場合、体を動かした時に強い痛みが出ることが多いです。その場合にどのような対処ができるのでしょうか?

 

動かない、痛くない態勢をとる

まず、当たり前のことですが、骨にがんが転移している場合には動くと強い痛みが出ますので、痛みが強くなった時にはむやみに動かないことです。また、痛みが出にくい態勢がある場合には、痛くなったらその態勢をとるようにしましょう。

痛み止めの屯用薬を体を動かす前に使う

そうはいっても、ずっと動かないわけにもいかないですし、トイレなどでどうしても動かざるを得ない状況もあります。そんな時には、痛くなった時に使用する屯用の痛み止めを動く前に飲むという方法があります。だいたい、屯用の痛み止めは15分〜30分くらいで効いてきますので、それを目安に使用することをお勧めします。

訪問リハビリを利用する

できるだけ痛みが出にくいような体の動かし方を、リハビリで習得するという方法もあります。リハビリというと、筋トレであったり、歩く練習であったりを思い浮かべる方も多いかもしれませんが、痛みに対するリハビリもあるのです。特に、骨に転移がある場合には、場合によってはちょっとしたことで骨折する(病的骨折と言います)ことがありますので、可能であれば訪問リハビリを利用して、痛みが出にくい体の動かし方、骨折を予防するための体の動かし方を習得してください。

 

そのほかの代替療法

音楽療法、ペット療法、アロマテラピーなど、人によっては効果が見られる治療があります。科学的な実証は困難ではありますが、少しずつエビデンス(有用な研究結果)が出てきているのも事実です。専門のセラピストが治療をした方がより高い効果があると考えられますが、ただ単に、好きな音楽を聴いたり、大好きなワンちゃんが近くにいたり、好きなお香を焚いたりすることで、痛みが和らぐことがあります。自分がリラックスできる環境づくりを色々と試してみることも重要です。

 

自宅に帰る事で痛みが和らぐことがある

病院で大量のモルヒネを使っても痛みが取れなかったのに、自宅に退院したら痛みが良くなって、使う麻薬の量を減らせたという不思議なことがあります。上記のように、自宅では自分がリラックスできる環境づくりができるので、それによって痛みが和らぐことがあるのでしょう。

 

どうしてもダメなら、看護師、医者を呼ぶ!

上記のように、在宅では色々は痛みを取る方法を駆使します。

しかし、それでもどうしても、痛みが取れない時はどうしたらいいのか?

そんな時は、やはり医療者に頼るのが一番です。担当の訪問看護師さんや在宅医師へ電話をしましょう。

24時間対応と言われている場合には、夜中だろうと休日だろうと遠慮はいりません。

適切なアドバイスをしてくれるか、必要があれば往診してもらうことができますので、ご安心ください。

 

 

いかがでしたでしょうか?自宅で痛くなった時にどうしたらいいか、本当に不安なことと思います。しかし、自宅でも痛みを取る方法は上記のように様々な方法があります。我々医療者は、退院する前や退院後の経過を見ながら、いろいろな方法を準備しています。痛みを完全に0にすることは難しいかもしれませんが、耐え難い痛みで苦しむことは少ないと考えて大丈夫です。どうぞご安心して、穏やかな自宅での生活をお過ごしください。

 

 

 

 

 

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加藤 寿

総合診療科祐ホームクリニック
職業:医師、専門:総合診療科、緩和ケア 自治医大を卒業し、埼玉県秩父地域で総合診療科として地域医療に従事。緩和ケアチームを立ち上げ、在宅医療の充実を図り、住み慣れた自宅で最期まで過ごせる地域作りに貢献してきた。医療の原点は地域にあると感じ、人を診る医師、地域を診る医師の育成を目指す。

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