<在宅医療の定義>
〜定期的な「訪問診療」をベースに、緊急時には臨時の「往診」を行う〜
在宅医療を理解するにはまず「訪問診療」について理解する必要があります。「訪問診療」とは、医師が自宅または施設に定期的(一般的に月に1回から2回)に訪問し、計画的に健康管理を行うものです。医師が自宅にうかがって診察をするというと「往診」という言葉を思い浮かべる方も多いと思いますが、「往診」は患者さんもしくはご家族の要請を受けてその都度診察に行くもので、一般に臨時往診と言われるように臨時のものです。
この、「訪問診療」と「臨時往診」を組み合わせたものが在宅医療となります。狭義の在宅医療に加えて訪問看護や訪問歯科診療、訪問薬剤指導に訪問栄養指導など、在宅で行われる医療全般を含む在宅における医療の総称として在宅医療という言葉を使用する場合もあります。
<在宅医療の対象者>
〜在宅医療の対象は「通院が困難な方」で、病気や介護度による区分はない〜
在宅医療の対象者は保険診療上の定義では、「在宅で療養を行っている患者であって、疾病、傷病のために通院による療養が困難な者」となっています。また、除外基準として、「少なくとも独歩で家族・介助者等の助けを借りずに通院ができる者」と通知されています。特定の病気の方のみに行われるものではありませんし、寝たきりでいわゆる重症の方のみが対象となっているわけではありません。しかし、外来通院が可能な方は、たとえ在宅医療を望まれたとしても保険診療で在宅医療を行うことはできません。
<在宅医療対象者の具体例>
在宅医療対象者の具体例を挙げると
・高齢で筋力が低下し一人で移動できる範囲が制限されており、家族が病院に連れて行くのも難しい方
・認知症に加え高血圧などの持病があるが本人には病識がなく病院に行くのに強い抵抗を示される方
・外来に通院していたが、腰椎骨折をきっかけに自力での通院が困難となった独り身の方
・夫が付き添ってなんとか通院していたが、夫が亡くなり付き添える家族がいなくなった方
・車椅子で通院していたが、病状の進行に伴い車椅子への移乗が困難となり外出が難しくなったか方
・悪性腫瘍(ガンなど)で積極的な治療の適応とならず、自宅で過ごすことを希望している方
・老衰で最後の時を迎えるのに、自宅をその場所として希望される方
・先天性の神経難病を抱え、自宅での生活は可能だが急変の可能性がある方
・脳性麻痺などの疾患を抱えた小児
といった様々な場合が広く対象となっています。
<在宅医療の費用負担に関して>
〜在宅医療の費用は住環境や疾患によっても異なるが、1割負担の方で月に3千円から8千円程度〜
在宅医療の費用関しては、1割負担の方で月に3千円から8千円がかかります。これは、入院でかかる費用の数分の一です。費用に幅があるのは、お住まい(自宅か施設か)、訪問診療の頻度、重症度、同じ建物で何人がその医療機関から訪問診療を受けているか、などによって細かく費用が設定されているためです。自宅にお住まいで、指定難病や末期癌など重症の方であれば費用は高くなります。しかし、指定難病であれば医療費助成制度がありますし、一定の金額を超えた部分が払い戻される高額療養費制度もあり、月額の自己負担額には上限があります。費用に関して詳しい記事は→こちら
<対象地域>
〜在宅医療が行えるのは医療機関から16km圏内〜
訪問診療を行えるのは、医療機関から16km以内の範囲と決まっています。このため、あまりに遠くの医療機関から訪問診療を受けることはできません。また、在宅医療では緊急で臨時往診が必要となることもあるため、往診を要請してから実際に来てもらうまでに1時間以上かかるような場所では、仮に16km以内に医療機関があるとしても、いざという時にすぐ来てもらえない可能性があり注意が必要です。
<在宅医療のメリット・デメリット>
〜在宅医療で提供できる医療サービスの質と量は、入院治療と外来治療の間にある〜
これまで、治療が必要にもかかわらずなんらかの理由で通院が困難な方は、入院をするしか医療を受ける方法はありませんでした。また、入院し積極的な治療を行ったものの病気を根治することはできなかった時、最後の時を家で過ごしたいと思っても、点滴やカテーテルの挿入などの医療的処置が常時必要な場合には、外来治療では対応することができず家で過ごすことはできませんでした。しかし、在宅医療の普及によって、これらの方々が住み慣れた家で治療を継続しながら生活を続けることが可能になります。
在宅医療で提供できる医療サービスの質と量は、入院治療と外来治療の間にあります。在宅医療では、血液検査や点滴、酸素投与や人工呼吸器の管理などは可能です。一方で、CTやMRIなどの画像検査は在宅医療が苦手としている分野です。費用に関しても、在宅医療は入院と外来の中間となります。
入院治療と比較した在宅医療の最大のメリットは、住み慣れた場所で過ごせることです。一方でデメリットとしては、介護者の負担が挙げられます。いくら本人が家での生活を望んだとしても、それを介護する家族がそれに同意し協力しなければ在宅医療は成り立ちません。この負担がどの程度のものか、不安に感じられるご家族も多いと思います。最近は様々な在宅医療・介護サービスが提供されておりこれを組み合わせることで、ずいぶんご家族の介護の負担を減らすことが可能となっています。
<どこに相談したら良いのか>
〜在宅医療を始めたいと思ったら、まずは、かかりつけ医かケアメネジャーに相談を〜
在宅医療を始めたいと思う、もしくは疑問があるけれどもどこに相談して良いのかわからないという方も多いと思います。この相談先としてまずお勧めするのは、担当されているケアマネジャーさんです。担当者を在宅医療に導入した経験があるケアマネジャーさんは多く、馴染みの医療機関を紹介してくれることでしょう。
担当しているケアマネジャーさん、在宅医療に詳しくないというケースも場合によってはあると思います。そういった場合は、地元の地域包括支援センターに相談してみましょう。地域包括支援センターというと、介護の相談をするところと思われがちですが、総合相談支援業務を行っており、その地元のどういった医療機関が在宅医療をおこなっているのかについても多くの情報を持っています。
その他の相談先として、市役所の介護保険担当窓口、訪問看護ステーション、在宅介護支援センター、保健所、地域医師会などが挙げられます。また、今かかりつけの先生に家に来てくれないかと相談してみるのも良いでしょう。最近、徐々にではありますが、外来診療のみを行っていたクリニックが、訪問診療を行うようになっています。もしくは、かかりつけ医の先生が信頼する在宅医を紹介してくれることもあるでしょう。